法人として社会保険に加入すると、保険料が変わるタイミングがあります。ここでは保険料の基礎になる「報酬」の考え方と保険料が変わる事由およびそのタイミングについて説明します。
〇ポイント
対象:被保険者ごと
時期:資格取得時、随時(月額変更届)、毎年7月1日から7月10日(算定基礎届)
〇メニュー
「報酬」とは
現物給付
資格取得時決定
月額変更
算定基礎届
まとめ
「報酬」とは
労働保険の保険料の基礎となる「賃金」とは、労働の対価として支払われる全てのものです。
社会保険料の基礎になる「報酬」は 、これと似て非なるものです。賃金の考え方よりも範囲が広く、労働の対価としての支払以外でも、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものが含まれます。つまり現金や振込で支払をしない場合でも、社宅を貸し与え、その利用料が無償のときなどは、厚生労働大臣が定める価額により報酬として加算することになるのです(労働保険の賃金にはこの考えはありません)。

現物給付
労働の対償として現物が支給される場合は、通貨に換算し報酬に合算して、標準報酬月額を求めます。現物で支給されるものが、食事や住宅である場合は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額に基づいて通貨に換算します。

全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額) | 日本年金機構
資格取得時決定
資格取得の際は、被保険者が事業主から受ける毎月の給与(報酬)を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額に当てはめ、保険料の額や保険給付の額を計算します。
標準報酬月額は、健康保険では第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています。
都道府県毎の保険料額表 | 全国健康保険協会
入社などにより資格を取得する際の標準報酬月額は、主に次の方法によって決めます。
- 月給・週給など→その報酬の額を月額に換算した額
- 日給・時間給・出来高給・請負給など→その事業所で前月に同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の平均額
通勤交通費が6か月など纏めて支給する場合は、1か月分(按分額)を報酬に加算します。また月の途中に資格を取得した際、住居手当や扶養手当など本来支給されるべき手当があれば、それも含めて算定します。
月額変更(随時改定)
取得の際には被保険者ごとの標準報酬月額が決まりますが、就労する上で給与額は変動することでしょう。基本給や手当などが昇給や降級する際は、4か月後に月額変更届を申請し、標準報酬月額を変更します。4月昇給のときは、7月分の保険料からの変更です。
この月額変更は次の3つの条件を全て満たす場合に行います。
- 昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった。
- 変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- 3か月とも支払基礎日数が17日以上である。

固定的賃金の変動とは次のような場合です。
- 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
- 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
- 日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更
- 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
- 住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更
固定賃金が変わらず、残業代の変動で2等級差になっても月額変更には該当しません。
また固定賃金と残業などの非固定賃金との相関は次の通りです。

月額変更届について | 関東ITソフトウェア健康保険組合
月額変更届の提出 | 日本年金機構
算定基礎届
固定的な変動が無い状態で残業など非固定賃金の増減が生じていると、標準報酬月額と実際の給与額に差が生じます。そのため1年に1度事業主は算定基礎届にて、4月から6月までの支給額を平均した額を届出します。この算定基礎届で算定された標準報酬月額を用い、毎年9月分から保険料が変わります。提出期間は毎年7月1日から7月10日、管轄の年金事務所へ持参または広域事務センターへ郵送します。
なお、この支給額を算出する際には、支払基礎日数が17日以上が原則です。17日未満の月は除外します。
この支払基礎日数とは、その報酬の支払対象となった日数のことです。
時給制・日給制の場合は、実際の出勤日数(有給休暇を含む)が支払基礎日数です。月給制・週給制の場合は、出勤日数に関係なく暦日数になります。ただし、欠勤日数分だけ給料が差し引かれる場合は、規程等により事業所が定めた日数から、欠勤日数を控除した日数となります。
パートタイムの場合で17日以上の月が1か月もない場合は、15日以上の月で算定しましょう。ただしこの15日以上という考え方は月給者には適用されません。


算定基礎届の提出 | 日本年金機構
算定基礎届の記入・提出ガイドブック | 日本年金機構
まとめ
保険料の変更のタイミングは年に数回あります。料率の変更は3月分保険料から、算定基礎届による変更は9月分保険料から、その他は月額変更による変更になります。算定基礎届の時期や秋などに、調査のために年金事務所から呼び出しの書面が届くことがあります。その際に月額変更届の申請漏れを指摘され、過去分遡及で訂正が入ることも多くなっています。事業主が管理できないときは、社会保険労務士へ依頼し管理を行いましょう。