
起業をする前に、副業から始めるか?
働き方改革が進む中、従来禁止していた副業を認める企業が増えてきました。自ら起業する前準備として副業を始める人も多いでしょう。この副業については、労働時間通算による割増賃金の点、長時間労働に対する安全衛生の点、社会保険適用の点など幾つかの課題があります。この概略を説明します。
〇ポイント
対象:全員
時期:退職前(起業準備前)
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就業規則を確認しよう
残業代の観点から労働時間を考えてみよう
安全衛生の観点から労働時間を考えよう
社会保険の観点から考えてみよう
最後に
就業規則を確認しよう
会社員が起業を考える理由は、お金のため、自己実現のためなど、人によって様々な理由があります。多くの人は普通の社会人として経験を積み、スキルを伸ばして起業する場合が多いでしょう。昨今の働き方改革の流れの下、まずは副業からスタートする人も増えています。
副業を始めるにあたり、まずは勤務先の就業規則の確認をしましょう。ロート製薬が正社員の副業を解禁したのは2016年。副業禁止にしていた日本の企業の中で、「社外チャレンジワーク制度」と銘打った副業解禁は、大きな話題になりました。それ以降大企業を中心に副業を認める企業は増えてきましたが、それでもまだ多くの企業では従来通り副業は禁止されています。また認めている場合であっても、多くの企業では届け出制、許可制となっていることが多いでしょう。情報漏洩の観点や、競業避止の観点、安全衛生の観点など様々な点から、企業に労働者の管理が求められている事情があります。認められていない副業を行うことは、勤務先の就業規則違反として懲戒処分の対象となる可能性もあります。隠れて行うのではなく、ルールを守って始めましょう。
残業代の観点から労働時間を考えてみよう
労働時間が1日8時間、週40時間を超えると、法律上割増賃金がかかります。従来の労働基準法では、この割増の支払義務は超えた時間に勤務していた企業に課せられていました。
例)1日7時間(本業勤務)+4時間(副業勤務)=11時間-8時間(法定労働時間)=3時間
この3時間分は本来後の副業先に支払い義務があるのです。ただし通算管理の難しさや長時間労働の防止の観点から、2019年現在労働時間通算は行わない方向で、審議が進んでいます。今後法律上も通算しない方向で明示される可能性が高いでしょう。
安全衛生の観点から労働時間を考えよう
労働基準法では1日8時間、週40時間までの労働が認められています。所定労働時間は企業によって異なりますが、正社員は1日7-8時間、週5日勤務が一般的です。本業だけでも40時間労働を超えて働く人が多い状況下で、副業をすることは安全衛生上望ましくはありません。現在日本の過労死基準は、法定外の残業時間が発症前1カ月間で約100時間、または発症前2~6カ月間平均で月約80時間となっています。今後この認定基準を下げることも検討されています。本業の残業が無い場合でも、副業を行うことで通算として過労状態になる可能性は高いものです。労働者自らがコントロールし、副業は無理をしない範囲を心がけましょう。
参照 過労死等防止啓発リーフレット | 厚生労働省
労災の観点から考えてみよう
労災は、原則的に1事業所での勤務を前提として考えます。労災の過労死基準は前項に記載しましたが、1事業所で過労死水準に達していない場合は、原則として労災認定はおりません。副業が増えたため、副業先へ向かう途中の事故は通勤災害として認められていますが、保障される賃金は該当の1事業所での賃金が元になります。副業先での労働災害の場合は、受けられる補償額は少なくなることを認識しましょう。
社会保険の観点から考えてみよう
社会保険(健康保険介護保険厚生年金保険)は、中小企業で凡そ週30時間勤務、501人以上の大企業の場合は週20時間勤務が加入要件です。適用の際は更に細かいルールがあるものの、上記を上回る場合は副業先でも保険手続きを求められる可能性があります。この基準に当てはまると「二以上勤務者」と呼ばれ、影響は大きくなります。つまり二か所それぞれの企業で社会保険に入るものの、本業副業の企業が按分して保険料を支払うことになります。また保険証は選択した企業のみで発行されます。企業側の手間が格段に増えるため、副業を許可制にしている企業では認めない可能性もあります。この点は是非押さえておきましょう。
尚、現時点では雇用保険は1事業所のみでの加入です。よって離職した際の失業給付が通算されて増えることはありません。
最後に
少子高齢化が進み、労働力人口は減っています。その中で転職などの労働移動は益々盛んになってきました。その企業だけで使えるスキル(企業独自スキル)を伸ばすことも重要ですが、外に出ても使えるスキルを伸ばすことは労働者企業共にwin winの関係を築くことにつながります。無理をしない範囲で、外に出て学んでいきましょう。
参照:副業・兼業 | 厚生労働省