労働保険は労災保険と雇用保険の総称ですが、この清算は年に一度、労働保険番号ごとに申告および納付をします。この労働保険料の申告清算を「年度更新」といいますが、ここではその仕組みと保険料の基礎になる賃金について説明します。
〇ポイント
対象:事業所ごと(労働保険番号ごと)
時期:毎年6月1日から7月10日に申告
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年度更新の仕組み
保険料基礎の「賃金」とは
保険料申告の集計方法と保険料率
保険料の納付期日
まとめ
年度更新の仕組み
労働保険は4月から翌年3月までが1サイクルです。
人を雇用すると50日以内に労働保険の手続を行います。この際年度末(3月31日迄)の労働者に対する賃金支払額を1,000円未満切り捨てにし、保険料率を掛けた金額を申告納付します。この保険料を労働保険の概算保険料といいますが、年度末迄の労働に対する保険料の預け金です。
概算保険料は当初予想される保険料であり、実際は労働者に支払う賃金総額が当初の想定と前後することもあるでしょう。そのため正確な保険料は概算保険料とは一致しない場合が多くなります。この実際の労働者へ支払う賃金から算出される正確な保険料を確定保険料といいます。
年度末までの概算保険料と実際の確定保険料には差額が生じるため、事業主は1年に一度清算をします。またこの清算時には、更に次の年度末迄の概算保険料も改めて預けるのです。
この概算と確定の保険料清算および次の年度末まで算保険料の申告を「年度更新」と呼びます。毎年6月1日から7月10日までの間が申告期限となっており、主に労働基準監督署に概算保険確定保険料申告書を提出することにより申告をします(納付額が生じる場合は、指定金融機関の窓口へ申告書と添えて納付します)。
事業所が幾つかあり、労働保険の継続一括を行っている場合は、労働保険番号単位で申告します。
「賃金」とは
労働保険料は、労働者に支払う賃金総額×保険料率で保険料が計算されます。この賃金は支払額全てという訳ではなく、「労働の対価として」の支払額が「賃金」となります。つまり恩恵的な支払や役員報酬などは対象となりません。また役員報酬と労働者を兼ねる兼務役員は、労働者賃金のみが対象となります。

社会保険の保険料の基礎よりも、労働保険の賃金はシンプルで狭いものです。申告の際には留意しましょう。
保険料申告の集計方法と保険料率
確定保険料の計算は、毎月の労働者に対する賃金額の合計から計算します。毎年5月下旬には労働局から緑色の封筒が届きます。この中に、「労働保険年度更新申告書の書き方」というリーフレットと事業所の労働保険番号や保険料率が印字された申告書の原紙が封入されています。記載するために下記のように年間の賃金総額を集計しましょう。

賃金総額が確定した後は、1,000円未満を切り捨て、申告書に印字された保険料率を積算して保険料を計算します。もしリーフレットが手元にない場合は、下記リンクの中にある資料を参照してください。
なお、労働保険は労災保険と雇用保険の総称ですが、確定保険料には労災保険料の他に一般拠出金もかかります。これは石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用に充てるため、事業主だけが負担するものです。アスベスト被害(中皮腫)は被災から発症までの期間が長いため、通常の労災保険料とは別扱いになっています。
労災保険料の保険料率は3年に一度変更され、雇用保険料率は毎年3月末頃までには翌年度分の保険料率が決まります。印字された申告書が無い場合は、事業所の業種を把握した上で、ホームページで保険料率を確認します。
また64歳以上の雇用保険料は、従来は労使ともに免除されていました。しかし高齢化が進み、2020年4月以降は64歳以上の高齢者でも若い人と同様に保険料がかかることになります。常に新しい記載方法を確認しておきましょう。
労働保険徴収関係リーフレット一覧 | 厚生労働省
保険料の納付期日
保険料の納付は、6月1日から7月10日迄の年度更新期間に行います。原則1回払いで指定金融機関や郵便局で支払いが可能です。なお、事業所が幾つかある場合は、労働保険番号ごとに納付します。例えば埼玉と東京に事業所がある場合は、東京労働局と埼玉労働局から案内が届きます。それぞれの労働保険番号毎に正しい申告額を記載して納付しましょう。
概算保険料が40万以上のときは3回の分納も可能です。また事前に口座登録を行っておくと、納期が遅くなります。口座振替の事業所は、銀行窓口で納付しないため、7月10日までに管轄の労働基準監督署に申告書を提出します。
納期 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
通常の納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
口座振替納付日 | 9月6日 | 11月14日 | 2月14日 |
労働保険料等の口座振替納付 | 厚生労働省
まとめ
毎月従業員の給与から雇用保険料は徴収していますが、これらは会社の預かり金扱いで、実際の納付は年に1度(分納の場合は3度)です。年度更新の期間は、労働基準監督署で社会保険労務士による相談コーナーも開催されます。記載方法が分からないときは、賃金台帳や事業主印を持参して相談してもよいでしょう。