事業を展開する段階になると人を雇用します。ここでは雇用する際の保険関係について、解説しましょう。
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対象:労働者
時期:1人でも雇用したら
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社会保険の成立と労働保険の成立の違い
労働保険の成立の手続
- 労働保険概算保険料申告書と労働保険成立届
- 雇用保険の事業所設置届
- 罰則について
まとめ
社会保険の成立と労働保険の成立の違い
社会保険は、使用者・労働者共に「被保険者」となり、労使の関係に違いはありません。法人登録をすると、役員1人であっても強制適用されます。
この社会保険とは異なり、労働法では事業主や役員を使用者と呼びます。労働保険は労災保険と雇用保険の総称ですが、共に労働者のための保険です。そのため役員のみで業務を行っている間は労働保険は適用されず、パートや社員など新たに人を直接雇用した段階で、初めて労働保険が適用されます。
労働保険への加入について | 厚生労働省
労働保険の成立の手続
労働保険(労災保険・雇用保険)は、大きく分けると二種類の成立方法があります。
- 一元適用事業
- 二元適用事業
一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を纏めて一本で行う事業です。多くの事業は一元適用です。
二元適用事業とは、保険料の申告・納付等を労災保険と雇用保険別々に行う事業で、以下の事業が該当します。
- 都道府県及び市区町村が行う事業
- 上記に準ずるものの事業
- 港湾労働法の適用される港湾の運送事業
- 農林・水産の事業
- 建設の事業
労働保険の成立手続 | 厚生労働省
労働保険は、労災保険と雇用保険の総称ですが、詳細は次の通りです。
名称 | 主な機能 | 成立要件 | 申請書類 | 事業所の管轄 | 申請期日 |
労働保険 | 労災保険・雇用保険を成立する際、概算保険料の前払いを行う | 労働者を雇用したとき | 労働保険概算保険料申告書 | 労働基準監督署 | 翌日から起算して50日以内 |
労災保険 | 業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度。併せて二次健康診断などの労働福祉事業も行う | 同上 | 労働保険成立届 | 同上 | 翌日から起算して 10 日以 |
雇用保険 | 労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、再就職の援助を行うことなどを目的とした制度。雇用保険料は失業者や在職者のための給付の他、事業主のための雇用関係助成金にも使われている | 被保険者となる人を雇用したとき | 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク | 事業開始の日から10日以内 |
雇用保険 | 労働者に雇用保険を適用させる | 同上 | 雇用保険被保険者資格届 | 同上 | 翌月 10 日まで |
適用事業所についての諸手続 | 厚生労働省
労働保険概算保険料申告書と労働保険成立届
一元適用事業では、労災保険と雇用保険の保険料の申告と納付を纏めて行います。まず最初に労働基準監督署で年度末までの概算保険料を申請し、併せて労働保険成立届の提出により労働保険番号の振出がされます。
労働保険は、年度(4/1から翌年3/31)単位で保険料を算出します。保険成立の際は、翌年3月までの労働者に対しての支給見込み額×業種別の保険料率から概算保険料を算出し、納付します。2019年の卸売小売業は、労災保険料率は3/1000、雇用保険料は9/1000です。
事業所の業種や詳細の保険料率については、HPで調べるか労働基準監督署に問い合わせをしましょう。手続きは、電子申請ではなく労働基準監督署の窓口に紙で届け出をすることをお勧めします。複写式の用紙は労働基準監督署にあります。記入方法や添付資料も監督署に問い合わせができます。
なお、労働者を雇用して労災保険が適用になっても、使用者(事業主や役員)は労災保険を受けることはできません。もし使用者が労災保険を受けたいというときは、労働保険事務組合に加入し、特別加入の手続が必要です。
労災保険率適用基準 | 厚生労働省
労災保険率(平成30年) | 厚生労働省
労災保険への特別加入 | 厚生労働省
雇用保険の事業所設置届
雇用保険は労働者が下記の要件いずれにも該当すると、適用されます。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
- 1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること。
短時間のパートタイマーのみ雇用するときは、労災保険のみ先に成立し、雇用保険は後日被保険者となる労働者を雇用した際に、成立手続をします。最初は、事業所の適用と、被保険者の資格取得をセットで行います。申請書はHPよりダウンロードもできます。
雇用保険適用関係様式ダウンロード | 大阪ハローワーク
罰則について
労働保険の適用をせず、放置しているときの罰則は次の通りです。
労働保険 | 遡って労働保険料を徴収するほか、併せて追徴金を徴収 事業主が故意又は重大な過失により労災保険に係る保険関係成立届を提出していない期間中に労働災害が生じ、労災事故が生じた際は、労災保険給付に要した費用の全部又は一部を事業主から徴収 |
成立手続を怠っていた場合には | 厚生労働省
まとめ
労働保険は、労働者を雇用する際には必ず手続をします。労災保険を成立せずに災害が起きてしまうと、事業主が負担する損害補償額は多額になります。雇い入れの際は早めに手続を行いましょう。