老後の生活の基盤となる年金制度は、社会保障の中で健康保険とセットで考える必要があります。今回は個人事業主として起業する場合と法人として起業する場合の2つのパターンで、年金制度の概略をご説明しましょう。
〇ポイント
対象:全員
時期:退職後~起業前
〇メニュー
起業形態別の選択肢
個人事業主として加入する公的年金保険はひとつ
- 国民年金(1号被保険者または3号被保険者)
上乗せとして加入する選択肢は主に3つ
- 付加年金(1号被保険者)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
- 国民年金基金(1号被保険者)
会社設立後、代表として加入する公的年金保険は1つ
- 厚生年金
国民年金に加入(個人事業主編)
国民年金について
退職後すぐに会社を設立しない場合や個人事業主としての起業をする際には、国民年金に加入が必要です。日本の年金制度は3階建てと説明されることが多いですが、国民年金はその1階の基礎年金の部分にあたります。加入年齢は20歳から60歳まで。よって60歳を過ぎてからの個人起業では国民年金に加入しません(任意で65歳まで加入することはできます)。
この国民年金は1号から3号被保険者に分かれており、起業を考える際は1号または3号のいずれかに該当します。

公的年金の種類と加入する制度 | 日本年金機構
退職後、健康保険を配偶者の被扶養者として認定を受けるときは、配偶者の勤務先で3号被保険者として申請します(必ず配偶者の勤務先を通じて行います)。なお3号被保険者は保険料を自分で負担する必要はありません。
被扶養者とならない場合は、1号被保険者として居住地の役所の国民年金課または管轄の年金事務所で手続きをしましょう。法定期限は前職での資格喪失後14日以内です。その際は、資格喪失をした事実が分かる書類(資格喪失証明書など)や基礎年金手帳、マイナンバー、身分証明書および印鑑などを持参します。会社員時代に配偶者を社会保険扶養としていた場合は、その配偶者の国民年金手続きも必要です。
会社を退職した時の国民年金の手続き | 日本年金機構
会社員時代の厚生年金保険は報酬額によって保険料が増減しましたが、国民年金の保険料は定額です。2019年度の保険料は毎月16,410円。口座振替やクレジットカード納付も可能です。前払いの割引もあります。配偶者と2人で加入すると月々32,000円を超えるため保険料は決して軽いものではありません。
国民年金前納割引制度(口座振替 前納) | 日本年金機構
退職後、もし手続きをせずに放置した場合は、後日自宅に納付書が届きます。支払いをしないと未納(保険料未払)になりますが、2年以内ならば遡及支払いができます。ただし未納中の保険給付には制限があるため、この状態はお勧めできません。失業を理由にした保険料の免除申請も可能ですので、もしスタートアップで支払いが難しい場合は、年金事務所に相談してみましょう。
国民年金の主な給付は、老齢・障害・遺族の3つ。年金制度の根幹部分のため、給付額は少なく老齢基礎年金の満額は年780,100円(2019年4月現在)となっています。
給付額を増やす 付加年金
老齢年金の満額は、40年間全て支払った(もしくは被扶養配偶者だった)際の額です。月々に換算すると約6.5万で生活の基盤とするには厳しい額でしょう。そのため今後法人化したり再就職をする予定がない場合は、少しでも給付を増やすことを心掛けましょう。
付加年金は国民年金1号被保険者独自の制度です。月400円という少ない掛金で確実な給付を受けることができます。
国民年金保険料 老齢年金給付の目安
国民年金保険料(2019年度:16,410円)×40年間=年間給付額780,100円
付加年金400円×40年間=年間給付額96,000円(月200円が加算される)
年金事務所で取得申し出を行った月からの加入となり遡及加入はできず、国民年金自体が未払いでは付加年金を収めることはできません。また国民年金基金加入者は付加年金に入ることができません。なお法人化して厚生年金加入となった際には自動的に付加年金の資格は喪失されます。
給付額を増やす iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは個人型確定拠出年金の呼称です。運用機関が用意した定期預金・保険・投資信託といった金融商品を自分で選択・運用し、60歳以降に年金または一時金で受け取る制度です(2019年12月時点での拠出可能年齢は60歳まで)。もし退職前に会社で企業型確定拠出年金に加入していた方が、退職して国民年金の1号または3号被保険者になったときは、以前の企業型確定拠出年金の資産をiDeCoに移す手続きが必要です。
また退職前に厚生年金基金、確定給付企業年金に加入していたときは、指定の要件を満たせば脱退一時金相当額を、iDeCoに移すことができます。詳しくはiDeCoの公式サイトや運用機関で確認しましょう。
もし退職前にiDeCoに加入しており、引き続き継続加入を希望するときは、2号から1号への種別変更の手続きが必要です。月の掛金下限は5,000円ですが、上限は1号(自営業)は月68,000円、3号(配偶者の扶養)は月23,000円です。全額社会保険料として控除対象となりますので積極的に取り組んでいきましょう。
転職・退職された方へ | iDeCo公式サイト
給付額を増やす 国民年金基金
国民年金基金は、国民年金の上乗せ給付です。終身型、確定年金型、遺族補償の有無など幾つかのパターンの中から自分で加入する型を選択します。運用次第で将来の給付額が変わるiDeCoと異なり、国民年金基金は確定給付です。よって受給金額は決まっています。
基金は加入途中で拠出を0円にすることはできず、任意で資格を喪失することもできません。また1号被保険者(自営業)のみが加入でき、3号被保険者は加入できません。掛金は、選択した給付の型、加入口数、加入時の年齢、性別によって決まり、上限は月68,000円。この上限は、iDeCoに同時加入していると合算した金額となっています。始める年齢などを踏まえて、制度を選んでいきましょう。
国民年金基金とは | 全国国民年金基金
厚生年金に加入(法人設立編)
退職後、すぐに法人を設立する場合には、厚生年金保険が強制適用されます。従業員がいない一人社長でも、役員報酬がない場合や極端に低い場合を除いては、厚生年金に加入しなければならないので、注意が必要です。
会社として新しく加入する手続きを行い、その上で役員として自分の保険加入手続きを行います。保険料は標準報酬月額に保険料率を掛け合わせた金額であり、その額を本人と会社が半分ずつ負担します。保険料の基礎になる標準報酬月額や役員報酬が未払いなどの際の考え方は、前回の健康保険編を参照してください。厚生年金の給付には老齢・障害・遺族があり、加入可能年齢は現在70歳までです。
法人設立後の厚生年金の新規加入手続きは、後ほどご説明します。
まとめ
今回は年金に退職後の年金についてご説明しました。健康保険と異なり年金制度は身近なものではありませんが、老齢ばかりでなく障害や遺族など自営業だからこそ気にしておかないといけない保障を持つものです。後回しにせず退職と同時に手続きを行っておきましょう。
次回は雇用保険と退職後の住民税についてご説明します。