人を雇用すると給与計算をして賃金を支払うことになります。給与計算は単純に見えますが、実は様々な法律が絡む複雑な作業です。今回は給与計算に関わる法律知識について解説します。
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対象:労働者
時期:雇用期間中
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賃金の5原則
最低賃金
割増率
割増賃金の基礎となる賃金
勤怠
まとめ
賃金の5原則
労働基準法では、賃金について5つの原則を定めています。

全額払の原則は賃金を控除を禁止していますが、租税公課(社会保険料や税金など)や、購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについては賃金から一部控除も可能です。なお、この控除をする際は、過半数労働組合や過半数労働者代表との労使協定の締結が必要です。勝手に控除することはできませんので注意しましょう。
また賃金を振込で支払う際にも、労働者本人からの同意が必要です。銀行振込口座の届出は、同意書も兼ねた書面で提出をしてもらいましょう。
なお配偶者の銀行口座への振込希望があっても、それは直接払の原則に抵触します。必ず労働者本人の銀行口座へ振込しないといけません。
最低賃金
政府は最低賃金の3%上昇を目標にしており、毎年上昇しています。最低賃金は毎年8月に最低賃金審議会からの答申を受けて、各都道府県労働局局長が定め、その年の10月の労働分から改定されます。
最低賃金には、地域別最低賃金の他、特定(産業別)算定賃金もあります。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。これらは強行法規のため、最低賃金未満の契約になっている場合でも、最低賃金の契約を締結したものとみなされます。
また本社と勤務地が違う地域の場合は、勤務地のある県の最低賃金が適用されます。
なお、月給契約でも時間単価が最低賃金を下回ることは禁止されており、毎年10月の給与計算では単価確認が必要です。
必ずチェック最低賃金 | 厚生労働省
割増賃金
労働者が時間外労働をするときは、割増賃金の支払い義務が生じます。
- 法定労働時間を超えて働くとき(時間外労働)は 25%以上
- 法定休日に働くとき(休日労働)は 35%以上
- 午後10 時から午前5時までの深夜に働くとき(深夜労働)は 25%以上
- 1か月60時間を超える時間外労働については 50%以上 ※中小企業については猶予措置中。2023年4月1日から実施予定
例)1日7時間を所定労働時間としている事業所で残業をするケース

割増賃金は正社員やパートなど雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。時給で契約する労働者にも割増賃金は支払わなければなりません。
法定労働時間 | 徳島労働局
しっかりマスター労働基準法 割増賃金編 | 厚生労働省
割増賃金の基礎から除外できる賃金
割増賃金を計算するためには、そもそもの単価を計算する必要があります。この計算基礎となる賃金は、基本給だけではなく各種手当も含めます。ただし一部の手当においては、基礎から除外することが可能です。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは限定列挙であり、このほかの手当は全て割増の基礎に含まれます。
なお、上記手当は見てわかるように、労働者個人の住まいや家族構成などを元に支給される属人的な賃金です。そのため同じ名目でも従業員に一律で支給される場合は、除外の対象とはなりません(例 家族が1人でも3人でも同額支給される家族手当や、持ち家でも賃貸でも同額支給される住宅手当など)。
勤怠
労働時間を集計する上で、15分単位や30分単位で切り捨てるケースをよく見かけます。
例) 9:03出社→9:15出社として集計
これは労働基準法違反です。日々の労働時間について切り上げとして労働者有利にすることは認められていますが、切り捨ては認められていません。原則として1分単位の集計が必要です。
ただし月の総労働時間(つまり日々の労働時間を1か月で纏めた集計時間)を30分未満の端数がある場合にはこれを切り捨て、それ以上の端数がある場合にはこれを1時間に切り上げることは便宜上認められています。
例)月の労働時間 167:13→167:00とする
また残業は、使用者からの残業命令があり、労働者が労働に応じることで時間外労働になります。よって、所定外残業を15分単位で命じれば、15分単位での時間外労働で集計することも可能です。この場合は命じた時間を超えて労働者が就労しないように、注意しましょう。
まとめ
今回は給与計算を始める際の前提となる知識を説明しました。賃金の5原則については、問い合わせを受けることが非常に多い点です。また勤怠を15分や30分単位で切り捨てる事業所は、労働紛争になった際に未払賃金として多額の支払義務が生じます。基本を正しく押さえて、正確な労務管理にあたりましょう。