個人事業主ではなく、株式会社や合同会社など法人を設立する際の社会保険の概略は、これまでにご説明しました。今回は個人事業から法人へ変更する際の社会保険の手続詳細と注意点を解説します。
〇ポイント
対象:事業主
時期:法人化後
〇メニュー
社会保険の適用について(健康保険厚生年金保険)
- 事業所としての新規適用手続
- 個人としての取得手続
適用前の健康保険の喪失手続
法人設立後、適用手続をしないとどうなるか
社会保険の適用について(健康保険厚生年金保険)
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入が義務付けられているのは以下の事業所です。
(1)法人事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用するもの
(2)常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所
株式会社や合同会社は法人事業所です。よって法務局で登記を終え次第、社会保険加入の手続を行います。
事業所としての新規適用
事業所として新しく登録します。
提出期限:事実発生から5日以内
提出場所:事業所を管轄する年金事務所または事務センター
提出書類:健康保険・厚生年金保険 新規適用届
添付資料:
1.法人(商業)登記簿謄本(90日以内に発行された原本)
2・法人番号指定通知書等のコピーまたは「国税庁法人番号公表サイト」で確認した当該法人情報を印刷したもの
3.法人事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合は、「賃貸借契約書のコピー」など
新規適用届は健康保険と厚生年金がセットになっており、法人化して間もない事業所は、協会けんぽと厚生年金保険に加入します。
提出期限は暦で5日以内ですが、実務上は登記簿謄本の入手に日数が掛かります。他の資料を揃え、登記簿が届き次第手続をしましょう。
標準報酬月額×保険料率が毎月支払う保険料です。健保は都道府県ごとに保険料が異なります。トータルでおおよそ総支給額の3割程度になりますが、本人と事業所が保険料を折半負担します。毎月20日頃に事業所に前月分の保険料の通知書が届き、月末に支払をします。
また新規適用手続が遅れても、加入日は法人の設立日(登記日)に遡ります。遅延理由書の提出が必要なケースもあり、保険料も遡及支払です。早めの手続を心がけましょう。
新規適用の手続 | 日本年金機構
標準報酬月額は、いつどのように決まるのですか | 日本年金機構
個人としての取得手続
登録した事業所に勤める被保険者として登録をします。
提出期限:事実発生から5日以内
提出場所:事業所を管轄する年金事務所または事務センター
提出書類:健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届/厚生年金保険70歳以上被用者該当届
70歳以上は健康保険のみに加入します。75歳以上は健保年金共に入りませんが、年金の支給調整があるため、届け出が必要です。
この資格取得届には、基礎年金番号またはマイナンバーの記入をします。
3親等内で年間収入が130万未満(60歳以上か障害者のときは180万未満)の被扶養者がいるときは、健康保険被扶養者異動届の提出も行います。60歳未満の配偶者を社会保険扶養とする場合は、「国民年金第三号被保険者種別変更届」も併せて出しましょう。なお、扶養の手続の際は、戸籍謄本や住民票など被保険者との続柄確認のための書類と続柄確認のための書類が必要です。届け出の前に年金事務所のホームページを確認しておきましょう。
従業員が家族を扶養にするときの手続| | 日本年金機構
適用前の健康保険の喪失手続
新規加入手続を終えると、以前の保険証は不要です。これは自動的に資格喪失されません。必ず自分で資格喪失の手続を行いましょう。その際は新しい保険証(コピー可)を添えて手続を進めます。
もし以前の健保が国民健康保険のときは、保険料の清算が必要になります。市町村窓口で行います。返却するまで以前の保険証は絶対に使わないように注意してください。
※厚生年金加入により国民年金は自動的に喪失するため 年金の手続は不要です。
法人設立後、手続をしないとどうなるか
日本の保険制度は、自ら手続を行うことが原則で、未手続のまま放置をすると数々の勧奨通知が届きます。
日本年金機構では雇用保険の適用情報、法務局の法人登記情報、国税庁の事業所情報などを勘案し、未適事業所に対して定期的な書面通知および窓口呼び出しを行います。また例えば地方自治体で営業許可を発行する際には、社会保険適用について確認される機会も増えているようです。未適を指摘される際は、原則法人設立日の遡及加入が求められます。例えば2年前に遡り、社会保険加入を行うということは、その間に使用していた国民健康保険などの医療費の返還も行わないといけません。非常に手間暇がかかることを理解してください。
まとめ
今回は法人化した際の保険手続の詳細をご説明しました。税金のことは気になるけれど、保険は今使っている保険証もあるため放置する事業主もいます。ただし手続は後になればなる程に添付資料が増え、支払うべき保険料も増えてきます。事前に理解が必要です。
次回からは、人を雇用する際の様々な法律知識を解説します。