起業を具体的に考える前に、社会保険制度を知ることはとても大切です。勤務先を退職した後の健康保険は、幾つかの選択肢があります。加入する保険により保険料の差も大きいため、必ず退職前に基本的な知識を知っておきたいところです。ここでは健康保険制度の概略を2回に分けて解説します。

〇ポイント
対象:全員
時期:退職時~起業前

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健康保険機能の共通点
健康保険の選択肢
 退職後、起業前に加入する健康保険の選択肢は主に3つ
 ・国民健康保険
 ・任意継続
 ・被扶養者

健康保険機能の共通点

ご存じのように、日本には国民皆保険皆年金の制度があります。日本に居住する以上、保険加入は必須ですが、実は健康保険にも幾つかの制度が混在しており、準拠する法律も異なります。

ただし、保険証の機能そのものは以下のような共通点があります。

  • 加入できる年齢は75歳に到達するまで
  • 保険制度のため加入や喪失などは自ら手続きをする必要がある
  • 受診の際の自己負担割合が3割である(低所得者や高齢者を除く)
  • 医療機関受診時に医療費が高額になる場合は、軽減緩和される措置がある(高額療養費制度、高額介護合算制度など)

加入する健康保険の選択肢

退職後、起業前に加入する健康保険の選択肢は主に3つあります。選択肢をそれぞれみていきましょう。

国民健康保険「キーワード:被保険者・世帯主・前年度の課税所得」

運営主体 市町村及び都道府県
加入要件 特になし
加入手続き 退職後14日以内に居住地の役所で行う (日数経過後も遡及加入可能)
※加入時に退職日の確認できる書類などが必要
保険料の基礎 前年度の課税所得額
保険料軽減措置 倒産解雇などによる失業は、加入時の申請により保険料軽減措置あり
納税義務者 世帯主
保険料納付期限 翌月月末

国民健康保険は、一番身近な保険制度ですが、その保険料は居住する市町村により大きく異なります。国民健康保険には「被保険者」がいるのみで、「被扶養者」は存在しません。つまり在職時の健康保険は5人家族(4人扶養)でも本人の給与額を基礎に保険料が決まりますが、国民健康保険は世帯単位、加入する人全ての前年度の課税所得の合算額を基礎に保険料が決まります。

また「前年度」が基礎になっている以上、退職後の保険料負担はそれなりに重いものです。保険料は1年分を12分割ではなく10回分割(6月期から翌3月期)で支払うため、1年に2ヶ月は支払いがない月が存在する点も特徴的でしょう。退職後の保険料目安は、前年度の源泉徴収票を手元に用意し、最寄りの市町村の国民健康保険課に電話して確認してみましょう。

任意継続「キーワード:2カ月以上・20日以内・2年間」

運営主体 在職時に加入していた健康保険 (協会けんぽまたは健康保険組合)
加入要件 在職時に被保険者として2カ月以上継続加入していること ※任意継続の加入は最長2年間まで
加入手続き 資格喪失後、20日以内に届け出
保険料退職時の標準報酬月額×保険料率×2倍 または 加入している現役の平均標準報酬月額(協会けんぽの場合30万)×保険料率×2倍 上記いずれか低い方
保険料軽減措置 無し
納税義務者 被保険者
保険料納付期限 当月10日

任意継続とは、在職時に加入していた健康保険にそのまま入るための制度です。

在職時の保険料は、本人と会社が折半で支払っていました。ですが任意継続は退職後の制度にあたるため、会社負担分も自ら支払うことになります。保険料は上記の図の通りですが、在職中の健康保険組合により保険料も保険料率も異なります。目安は今までの保険料おおよそ2倍と考えておきましょう。

また国民健康保険とは異なるため、扶養者分の保険料を負担することはありません。

勿論、家族を扶養するときは、任意継続の手続きの際に再度家族の所得証明などの資料を揃えて認定を受ける必要があります。

なお、健康保険組合によってはインフルエンザの予防接種補助や人間ドックの受診補助など充実した給付もあります。今まで受けていた給付の多くは、退職後もそのまま利用できます。ただし傷病手当金や出産手当金による給付は受けることができません(在職時から継続給付を受けるときを除く)。

色々と良い面がある制度ですが、取得手続きの期日や保険料納付の期日は非常に厳密です。期日を過ぎると、被保険者資格を失います。最大2年間までの加入となりますが、在職時に給与を高く得ていた人は、この制度を選ぶと保険料を抑えられる可能性が高いでしょう。具体的な保険料は所属する健康保険の適用課に電話して確認してみましょう。

任意継続とは | 日本年金機構

扶養に入る 「キーワード:3親等以内・130万円未満」

もし家族の扶養として認定を受けることができれば、保険料がかかりません。

扶養の範囲 3親等以内で、主として被保険者に生計を維持されている人
収入基準 (同居の場合) あなたの年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者である家族の年間収入の2分の1未満である場合

(別居の場合)
あなたの年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者である家族からの援助による収入額より少ない場合

扶養に入ることは保険料がかかりませんが、退職証明や住民票など添付資料を求められることが多いものです。もし退職後に雇用保険の失業給付を受ける場合は、1日当たりの給付日額が3,611円を超えると扶養者になることはできません。(3,611円×360日=約130万の収入になるため)

また別居で家族の扶養に入るためには、家族からの仕送りの送金資料も必要です。

年収130万までは収入も認められていますが、毎年扶養の要件に収まっているか調査(被扶養者f調書)を受けることになります。例え一度扶養に入った場合でも、月約10.8万(3,611円×30日=約10.8万円)を超える際は、扶養から外れてしまいます。その際は国民健康保険加入へ新たに入り直しましょう。

扶養に入ることができるか、手続きの際の添付書類などは家族の加入している健康保険により異なります。原則遡及加入はできないため、退職後5日以内の届け出ができるように事前に問い合わせをしておきましょう。

チャートで確認!健康保険扶養認定 | 協会けんぽ
健康保険(協会けんぽ)の扶養にするときの手続き | 日本年金機構

次回は、起業してからの保険を解説します。