起業直後の経費を考える際、社会保険の費用も考慮しなくてはいけません。会社員時代の社会保険料は、総支給額のおおよそ3割に達していました。起業後の負担はどの程度になるでしょうか。個人事業主としての起業と法人としての起業の2つのパターンで、健康保険の概略をご説明しましょう。

〇ポイント

対象:全員

時期:起業時

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起業形態別の選択肢

個人事業主として加入する健康保険の選択肢は主に3つ

  • 国民健康保険
  • 健康保険(被扶養者)
  • 国民健康保険組合

会社設立後、代表として加入する健康保険の選択肢は1つ

  • 健康保険
  • (国民健康保険組合)

健康保険の選択肢(個人事業主編)

国民健康保険

個人事業主として起業する際は、国民健康保険に加入することができます。退職後、起業前までに加入していれば、起業後の変更手続きは必要ありません。

保険料はあくまでも前年度の課税所得を基礎としているため、起業後の所得は影響しません。よって、起業直後の収入が少ない時期であっても、保険料は比較的高くなりがちです。保険料や被保険者の考え方など概略については、「起業前編」をご参照ください。

また個人事業のまま従業員を雇用する場合は、その雇用人数が常時5人以上になると国民健康保険ではなく協会けんぽに加入することになります。その際、従業員は協会けんぽ加入になりますが、個人事業主自身は協会けんぽには加入出来ず、国民健康保険加入が続きます。この点はご注意ください。

健康保険(被扶養者)

個人事業主として起業する際、最初は収入が少ないケースが多いことでしょう。退職後、一旦家族の社会保険扶養として認定を受けているときは、起業後の収入から保険を考えます。

社会保険の被扶養者の収入要件の上限は、年収130万(60歳以上や障害を持つときは180万)ですが、この金額は年間の累計額を示すものではありません。つまり130万÷12ヶ月=10.83万円が1カ月あたりの基準額と考えられており、これを超える収入になるときは、自身で他の保険(国民健康保険など)の加入手続きを取る必要があります。

また、社会保険の収入は、根拠とする法律が異なるため、税務の「所得」の考えとは異なります。つまり収入から必要要経費として控除できない費用も多いものです。

控除できる経費の例 売上原価(一般所得)、種苗費、肥料費(農業所得)等 
控除できない経費の例   減価償却費(一般所得、農業所得、不動産所得)等 

被扶養者でいることは健康保険の保険料負担は必要ありません。ただしその認定されるための収入要件は厳しいため、正しい自己管理を行いつつ、個人事業が順調に進んだ暁には自ら扶養削除の手続きを行うことを忘れないようにしましょう。扶養認定の要件などは、「起業前編」をご参照ください。

国民健康保険組合

国民健康保険組合とは、国民健康保険法を根拠とした組織です。加入できる地域は限定されており、同種の事業・業務の従事者によって組織されています。例えば東京では以下のような業種があります。

  • 東京美容国民健康保険組合(美容業を開業している個人事業主及びその従業員)
  • 東京食品販売健康保険組合(食品販売に纏わる事業を開業している個人事業主及びその従業員)
  • 東京都医師国民健康保険組合(クリニックを開業している個人事業主及びその従業員)

市町村が行っている国民健康保険とは異なるため、組合ごとに対応が異なります。多くの組合では、事業主とその家族及び従業員とそれぞれ定額の保険料となっていますが、中には前年度所得により保険料が変わる組合や、現在の給与額に保険料率をかけて保険料を決める組合もあります。概して保険料は市長村の国民健康保険よりも安くなるケースが多いようです。また給付もそれぞれですので、例えば私傷病で働けなくなった際に手当金が出る組合や、産前産後に保険料免除になる組合もあります。

なお、国民健康保険組合は加入できる業種と地域が限定されており、中には加入するための前提条件として別の組織加入を求めている組合もあります。自分の加入できる健康保険組合はあるのか、また保険料や給付はどのようなものかはインターネットなどで自分で情報収集を行っていきましょう。

健康保険の選択肢(法人編)

健康保険(協会けんぽ)

起業と同時に法人を設立するときは、協会けんぽなどの健康保険が強制適用になります。会社として新しく加入する手続きを行い、その上で役員として自分の保険加入手続きを行います。保険料は標準報酬月額に保険料率を掛け合わせた金額であり、その額を本人と会社が半分ずつ負担します。この標準報酬月額は、役員報酬と交通費を元に決まります。役員報酬が0円の場合は保険資格を得ることができませんが、会計上役員報酬を定めた上で、未払の状況では保険手続きは可能です。ただし未払の報酬を最終的に受けないときは、その時点で保険資格は失います。

保険料の元となる報酬月額と都道府県別の保険料率は以下をご覧ください。

標準報酬月額・標準賞与額とは? | 協会けんぽ

都道府県毎の保険料額表 | 協会けんぽ

会社員時代には健康保険組合に加入していた人も多く、法人起業後は健康保険組合を希望する方も多いことでしょう。健康保険組合への新規加入は、最低でも協会けんぽの加入歴が6ヶ月以上必要です(加入要件は組合ごとに異なりますが、設立後すぐに加入できる健康保険組合はありません)。将来的に編入を考えつつ、まずは着実に事業を広げていきましょう。

(国民健康保険組合)

イレギュラーな対応になりますが、個人事業主として既に国民健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合の承認を得て、引き続き加入することができます。協会けんぽと異なり保険料の会社負担は無いため、全額が個人負担になります。

なお、国民健康保険組合の承認を受け引き続き加入する事業所では、従業員を雇用する際も国民健康保険組合へ加入することができます。つまり従業員の保険加入に際して会社の保険料負担は生じないため、会社としてのメリットは大きいものでしょう。

まとめ

2回に分けて健康保険をご説明しました。健康保険は社会保障の中でも一番身近でありかつ保険料負担も重いものです。起業前後の保険料は、選択する保険者ごとにバラツキがありますので、起業前に必ず問い合わせをして確認しておきましょう。

次回は起業前後の年金についてご説明します。